【世界最古のブラストビートは?】ブラストビートのルーツを探る【 ナパーム・デスが名付け親?】

   

 

概要

ブラストビートと言えば、デスメタルやブラックメタル、グラインドコア等のいわゆるエクストリーム・メタルで頻繁に用いられるドラムビートである。
一言でブラストビートと言っても様々なバリエーションが存在するが、全てにおいて共通する事はバスドラム、スネア、シンバルを高速で連打するというもので、主に楽曲に勢いや力強さを持たせたい時に用いられる。
先述のようなエクストリーム・メタルのリスナーであればブラストビートは聴き慣れたものだろうが、改めて考えてみればこれはかなり特殊なドラムビートだ。
デスメタル、ブラックメタル、グラインドコア等の暴力性や過激さを追求したごく一部の限られたジャンルでしか用いられず、ロックやポップスなどの一般的な音楽で耳にすることはまずない。
そこでふとこんな疑問が頭に湧きあがってきた。
「いったい誰がこんなドラムビートを発明したのだろうか?」
「世界で一番最初にブラストビートが使われている曲はどれだろうか?」
というわけで今回はブラストビートの起源について探ってみようと思う。

ブラストビートとは

まず初めに、ブラストビートとは具体的にどういうビートなのか、という点について軽くおさらいしておく。
ブラストビートと一言で言ってもハンマーブラスト、ボムブラスト、グラビティブラスト等様々なバリエーションが存在するが、今回は最もオーソドックスで、ブラストビートの原型ともいえるトラディショナルブラストを紹介する。

(画像)トラディショナルブラストの譜例


 
これはバスドラムとスネアを交互に叩くと言うフレーズで、いわゆるスラッシュビートを高速で叩いたフレーズだと考えることも出来る。
では高速とは具体的にどのぐらいの速さかと言うと、明確に定義されているわけではないがBPMが180以上というのがおおよその基準らしい。
かといって、BPMが180未満だとそれはブラストビートではないのかというと、一概にそうとは言い切れない。この辺は明確に線引きできないものだが、一つの目安としてだいたいBPM180以上ということである。

Napalm Death

さて、本題に戻ろう。
ブラストビートのルーツはいったいどこにあるのか?
このテーマにおいて、よく名前が挙がるのがグラインドコアの創始者であるNapalm Deathだろう。
1987年にリリースされた1stアルバム「Scum」は、グラインドコアの先駆けであり、またブラストビートを世に知らしめた一枚として名高い。
またドラマーであったMick Harrisが「グラインドコア」や「ブラストビート」という名称の名付け親であるとされている。
ではこのアルバムが世界で最初のブラストビートが使われているアルバムなのだろうか?
残念ながらそうとは言えないようだ。

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S.O.D.

さらに調べてみた結果、なんと自らがブラストビートの先駆者だと豪語するドラマーがいた。
その人物はAnthrax、S.O.D.のドラマーCharlie Benanteで、彼はdrumtalkのインタビューで、「1985年にS.O.D.がリリースしたアルバムが、ブラストビートが収録されている最初のアルバムだ」と述べている。また、「このアルバムがブラストビートが収録されている最初のアルバムだと信じない人々にはうんざりしている。俺が間違っていると証明できるならしてみろ。でも俺はあれが最初だと信じている」と、S.O.D.がブラストビートの元祖であると認めない人々に対して不満を述べた。
彼が主張するブラストビートが収録されている世界初のアルバムとは1985年にS.O.D.がリリースした1stアルバム「Speak English or Die」だ。
言わずと知れたクロスオーバー・スラッシュの名盤だが、世界初のブラストビートはこの中の「Milk」という曲に収録されているらしい。

ドラマー本人が言っているのだから、S.O.D.の1stアルバム「Speak English or Die」の「Milk」がブラストビートの元祖で確定だろう、と言いたいところだが、そう簡単に結論は出せない。
「Speak English or Die」がリリースされた1985年よりもさらに前にブラストビートが使われていると思しき曲がいくつかあるのだ。

最古のブラストビート

以下にそれらを抜粋する。
まずS.O.D.とおなじくクロスオーバー・スラッシュの先駆者D.R.I.が1983年にリリースした1stアルバム「Dirty Rotten LP」に収録されている曲「No Sense」から。
時間は短いが確かにブラストビートと言えなくもない。


 
 
次にBeastie Boysが1982年にリリースした1stEP「Polly Wog Stew」に収録されている曲「Riot Fight」を取り上げる。
「Beastie BoysってあのヒップホップグループのBeastie Boysか?まさかブラストビートなんてやってるわけないだろう」と思うかもしれないが、実は彼らは元々はハードコア・パンクバンドだったのだ。
これもかなり荒削りではあるがブラストビートとみなせるものだろう。

 
 
最後にスウェーデンのハードコア・パンクバンドAsocialが1982年にリリースしたデモ「How Could Hardcore Be Any Worse」を紹介する。
書籍「スウェディッシュ・デスメタル」の著者Daniel Ekerothはこれが最古のブラストビートだと述べている。


 
 
Beastie Boysの音源とAsocialの音源はどちらも1982年にリリースされている。
従ってこのうちのどちらかがブラストビートが収録されている最古の音源だということになる。
さらに調べてみた結果、Beastie Boysの方は1982年の7月にリリースされたものだということがわかった。
だが、残念ながらAsocialの方は1982年の何月にリリースされたのかという情報を見つけることは出来なかった。
そのため当記事ではBeastie Boysの「Polly Wog Stew」とAsocialの「How Could Hardcore Be Any Worse」の両方を世界最古のブラストビートが収録されている音源ということにさせて頂く。

と、ここでこの記事を締めくくりたいところだが、もう一点追記しておくべきことがある。

ブラストビートとジャズ

ブラストビートのルーツはジャズにある、という意見だ。
調べてみたところ、最も古いもので1955年にDuke Ellingtonのジャズバンドのドラムソロに、ブラストビートの萌芽ともいえるべきものが見つかった。

果たしてこれがブラストビートと言えるかどうかは微妙なところだ。
ただし、古くは50年代のジャズバンドのドラマーにもブラストビートのようなテクニックが使われていたことは特筆に値するだろう。

まとめ

というわけで、ブラストビートのルーツについてまとめておく。
・ブラストビートの名付け親は元Napalm DeathのドラマーMick Harris
・明確なブラストビートの原型は1980年代初頭のハードコア・パンクシーンで形成された
・その中でも最古のものは1982年にリリースされたBeastie Boysの「Polly Wog Stew」とAsocialの「How Could Hardcore Be Any Worse」
・より古くには、50年代から70年代のジャズにブラストビートを想起させるビートが確認できる

今日(こんにち)のエクストリームメタルでは当たり前のように使われているブラストビートだが、それらは一朝一夕に出来たのもではなく、先代のミュージシャンの試行錯誤の賜物なのだ。
ブラストビートはつくづく奥が深いビートである。

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